東西の美意識を融合する花の世界。マーク・ヴァサーロによるエキシビション開催
10年以上にわたり「花」を題材に撮影してきた英国人写真家のマーク・ヴァサーロの作品が、5月17日から開催されるエキシビション「Emptiness is Form」に出展される。19世紀のイギリスで開発された技法と日本の伝統技法を駆使した作品に注目!
「美しさは私たちのまわりに溢れています。わたしたちが目を開いてさえいれば。花は人生の美しさを教えてくれる普遍的な存在なのです」
モノクロで映し出された幻想的な花々は、瑞々しく繊細、そして官能的ですらある。5月17日から6月20日まで、東京・代々木上原のファイアーキングカフェで開催されるこのエキシビションでは、10年以上にわたり花をテーマに作品を撮り続けたヴァサーロの軌跡をたどることができる。
「もっとも最近の作品『Platinum』シリーズは、1800年代中期に英国で誕生したプラチナ・プリントと呼ばれる技術を採用しました。科学的に安定性の高いプラチナを使った化合物を紙に塗布し、ネガを密着させ太陽の光で焼き付けるという手法です」
プラチナプリントは500年も耐久性があるといわれる高度な写真現像技術で、その耐久性から『時を永遠に』閉じ込めるプリント技術と呼ばれる。
また、その階調表現の豊かさには定評があり、黒から白にいたるグレーの調子は、ほとんど無限といわれ、通常のプリントでは黒いベタにしか見えない部分も質感と立体感を再現することができる。
ほかにも、古くから日本に伝わる金箔を使った作品も展示される。
「金沢でとれた22カラットの金箔が貼られた『FLOWER』のプリントは、私のシグネチャーというべき作品です。顔料インクによるプリントの周りに何層ものレイヤーの金箔を施しました。金箔から放たれる輝きと花のコントラストは、日の時間帯によって変わり、また、観るものの立ち位置でも変わります。ろうそくで明かりをともしていた時代にこの金箔がどんな神秘的な光を反射していたのか、想像を掻き立てます」
エキシビションのタイトル「Emptiness is Form」は、山梨の山寺で数カ月座禅を学んだ経験をもつヴァサーロが大切にする禅の考え方に由来しており、「色即是空 空即是色」の英訳「Every form in reality is empty, and emptiness is the true form.」からきている。
「1本の花には、すべての宇宙が内包されている」というマーク・ヴァサーロが創り出す花の世界に魅入られてみてはどうだろう。(2021.5.17 for GQ JAPAN)
マーク・ヴァサーロ
1971年にマルタ出身の両親のもとイギリスで生まれたヴァサーロは、セントラル・セント・マーチンで美術を学んだ。92年より日本に拠点を移し活動している。ブランドの広告キャンペーンやファッション・ポートレイトを手がけるいっぽう、近年では、静岡県下田の白浜にアトリエを構え、陶芸作品も制作している。